片麻痺の方に用具が必要な理由
脳卒中(脳梗塞・脳出血)や頭部外傷などによる片麻痺は、体の一側面(右または左)の随意運動が困難になります。麻痺側は筋力低下・感覚障害・痙縮(筋肉が硬くなる)が重なり、日常動作の多くで「バランスの崩れ」が生じます。適切な福祉用具は、健側の機能を最大限活かしながら、麻痺側を補い安全に動ける環境を作ります。
麻痺の重症度は「Brunnstrom Stage(ブルンストロームステージ)」で1〜6段階に分類されます。Stage 1〜2(弛緩麻痺・弱い随意運動)では歩行器・四点杖が中心。Stage 3〜4(共同運動・一部分離運動)では一本杖や多点杖。Stage 5〜6(分離運動良好)では歩行補助具なしで歩けることもあります。用具選定は理学療法士(PT)との連携が重要です。
杖の選び方|片麻痺の場合の原則
杖は健側(麻痺のない方の手)で持つのが原則です。歩行の手順は「杖 → 患足(麻痺側の足)→ 健足」の順に進みます。
| 杖の種類 | 対象となる状態 | 特徴 | 介護保険 |
|---|---|---|---|
| T字杖(一本杖) | 軽度麻痺・バランスが比較的良好 | 軽い・扱いやすい。屋内外どちらでも使用可能 | ○(レンタル対象外、販売) |
| 多点杖(三点・四点) | 中等度麻痺・立位バランスが不安定 | 接地面積が広く安定性が高い。屋内向き | ○(レンタル対象外、販売) |
| ロフストランドクラッチ | 前腕で支える必要がある場合 | 前腕カフで固定。握力が弱くても使いやすい | ○(レンタル対象外) |
| 歩行器(固定型) | 重度麻痺・単独での歩行が不安定 | 両手で支えて歩く。安定性最高 | ○(介護保険レンタル対象) |
杖の高さは「大転子(太ももの外側の出っ張り)の位置」が目安です。高すぎると肩が上がり疲れやすく、低すぎると前傾姿勢になります。立位で杖を握ったとき、肘が軽く(約20〜30度)曲がるのが正しい高さです。必ずリハビリ職員に確認してもらってください。
手すりの設置位置|健側に設置が基本
手すりは健側の手で握るため、健側の壁に設置するのが基本です。ただし階段では上り・下りで持ち替えが必要な場合があるため、両側への設置も検討します。
| 設置場所 | 設置方向の基準 | 推奨する手すりの種類 |
|---|---|---|
| 廊下 | 健側の壁(移動方向に合わせて) | 連続型手すり(高さ75〜85cm) |
| トイレ | 便器の健側(立ち上がり時に使う側) | L型または縦横複合型手すり |
| 浴室入口〜脱衣所 | 健側 | 縦型手すり(グリップしやすい) |
| 浴槽横 | 健側(またぎ方向に合わせる) | 浴槽用可動式手すり・挟み込み型 |
| 階段 | 上り時:健側、下り時:逆になる場合は両側 | 両側設置が理想 |
車いすの選び方|片手駆動型という選択肢
片麻痺の方が自走する場合、通常の車いすは健側の手と足で操作できます。より安定した自走を可能にする「片手駆動型車いす」は、健側のハンドリムを内外2本設けることで、一本の腕でも両輪を別々に操作できます。
| 操作方法 | 特徴 | こんな方に向く |
|---|---|---|
| 健側の手・足で操作(通常型) | 既存の自走式車いすをそのまま使用。慣れれば操作可能 | 軽度麻痺・健側の上肢機能が良好 |
| 片手駆動型(同軸2ハンドリム) | 健側のみで両輪を制御。外ハンドルで直進、内ハンドルで旋回 | 中等度麻痺・健側一本腕での移動を求める |
| 電動車いす | ジョイスティック(健側)で操作。操作学習が必要 | 重度麻痺・長距離移動・屋外使用 |
入浴用品の選び方|浴槽またぎの安全確保が最重要
入浴時の転倒リスクは、麻痺のある方にとって最も注意すべき場面のひとつです。「浴槽またぎ」の動作を安全にするための3点セットを整えることが基本です。
| 用具 | 役割 | 介護保険区分 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 浴槽用手すり(挟み込み型) | 浴槽をまたぐ際の支え | 特定福祉用具購入対象 | 5,000〜20,000円 |
| 浴槽内椅子(バスボード) | 浴槽内での座位保持、またぎ動作の段階化 | 特定福祉用具購入対象 | 3,000〜15,000円 |
| シャワーチェア | 洗体時の座位保持、立位不安定時の安全確保 | 特定福祉用具購入対象 | 5,000〜30,000円 |
| すべり止めマット | 浴室床・浴槽内の滑り防止 | 特定福祉用具購入対象 | 1,000〜5,000円 |
入るとき:①シャワーチェアに座る → ②左手(健側)で手すりを持ち、患足(右足)を先に浴槽に入れる → ③健足(左足)を入れる → ④バスボードに座る。出るとき:逆の順序で健足(左)を先に出す。「麻痺足から入れて、健足から出す」と覚えてください。
まとめ
- ☑ 杖は健側の手で持ち、高さを大転子に合わせて調整
- ☑ 手すりは健側の壁に設置(廊下・トイレ・浴室すべて)
- ☑ 自走を目指す場合は片手駆動型車いすを検討
- ☑ 入浴は浴槽用手すり・バスボード・シャワーチェアの3点を整える
- ☑ 麻痺の程度変化に応じて用具を見直す(回復期は特に重要)
片麻痺の方の用具選びは「健側を最大限活かす」という一貫した方針のもと、麻痺の程度・回復経過・住環境の3点を踏まえた選定が必要です。担当の理学療法士・作業療法士・福祉用具専門相談員が連携して相談に応じます。